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ICUのパーパスと
ICUのパーパス経営構造と
ICUにしかできないWeb表現。

記事:2022年10月01日

2018年に、縁あって、母校国際基督教大学の大学サイトのリニューアルを担当しました。大学卒業以降、コミュニケーション領域で積み上げてきた実績を評価いただいた上のお声がけだったのだと思います。自分は、ICUにたくさんの無形資産をいただきました。本当にたくさんの。現在の自分の仕事を支える思考作法は、ICU在学中4年間にで育てられたものが核になっていると思います。なので、このリニューアルの依頼も、恩返しのつもりで臨んだのでした。自分にしか見つけられない何かを発見し、それを核に強いコミュニケーションを実現しようと。ところが、このリニューアルは、思いもかけなかった方向へと走り始め、当初想像しなかった着地へと至っていきます。それは、自分の母校の底深さと凄さを改めて感じさせるものであると同時に、ブランドを考える仕事をしてきた自分に新たな視座を与えるものともなりました。

ICUはもともとユニークな教育を実践する大学として有名でした。


ICUはもともと、ユニークな教育を実践する大学として有名であり、それが大きな評価と実績を作ってきました。日本においてリベラルアーツ教育をもっともストイックに実践してきた大学として有名でした。入試が変わっていることで有名でした。キャンパスが広大なことで有名でした。少人数教育にこだわる大学として有名でした。厳しい英語教育があることで有名でした。授業の多くが英語で行われていることで有名でした。理系文系の壁をつくらないことで有名でした。国際機関などにたくさんの人材を輩出していることで有名でした。さらには、それら特徴が創設以来変わらず維持されてきたこともユニークなポイントでした。

ICUがつくってきたICUらしさが、ICUらしく見えにくい時代。


ただ、時代が変化する中で、ICUの変わらぬ姿勢とユニークネスが少しずつ世間に伝わりにくくなるという問題に直面します。インターネットが生まれて以降、情報のフラット化が世界の情報構造を変えてきました。先月生まれたばかりの企業も、300年の歴史をもつ企業と等価の顔つきをつくることが簡単にできてしまう時代。技術の未熟な新人も、20年のベテランと並ぶ印象をつくれてしまう時代。時にはコピー商品のサイトが、本物を扱うサイトよりもメジャーで本物感あるイメージがつくれてしまう、なんてことも簡単に起こってしまうのが今の時代です。

「グローバイリズム」「国際化対応人材の育成」「バイリンガリズム」「リベラルアーツ教育」。ICUが創設以来淡々と掲げ守ってきた特徴を多くの他大学が同じように掲げ始めたのです。しかもホームページや広告広報を通じて大きな声で語り始めたのです。大学教育は生き残りの時代に突入しています。どの大学も、自分たちが生き残る大学になるために、必死にアピールする必要があるのです。時代キーワードを強く掲げて、時代に乗った存在であることをアピールする必要があるのです。フラット化した情報構造の中では、それまでの実績や蓄積は見えませんから、そうして強く語る他大学が増えてくることで、ICUのユニークネスはかつてほどユニークなものに見えなくなってきた。「グローバリズム」とか「国際的対応人材の育成」とか「バイリンガリズム」とか、ICUだけじゃない他の大学も言ってるじゃない、ということになってきたのです。ホームページ上で同じトーンで語っていると、ホームページを見にきた高校生や親御さんには、差のないものに見えてしまう。そんな時代なのですね。


ICUが他大学と根本的に違うことを伝える独自の伝え方、とは?


「何を言うか」、それも大事ですが、「どう言うか」がより問われる時代です。ICUのユニークネスが見えにくいからそれをたくさん言う、いろんな場所で言う。それも一つの解決ですが、ICUがたくさん言えば、競合もたくさん言ってきます。いろんな場所で言ってきます。潤沢に予算をかけて仕掛けてきます。そんな泥試合に巻き込まれるのは、そもそもICUらしくありませんし、本物感がありません。ICUらしい、ICUにしかできない伝え方で言う、それが何なのかを発見する必要があります。

教授インタビューで聞いた興味深いお話。


そんな中、キーパーソンインタビューで教授が話してくださった興味深い話を思い出します。
「広いキャンパスを持つことは、リベラルアーツ教育の基本に関わることなんです」
「え、そうなんですか?」
「教授やファカルティが敷地内に住んでいることも、リベラルアーツ教育に関わることですよ」
「え、そうなんですね」
「多くの教室で袖づくえ付きの椅子が採用されているのも、リベラルアーツ教育に関わることです」
「えーーー!」
自分たちが、ICUのユニークポイントとして個別に認識していた要素ひとつひとつが理由があってそうなっていること。さらには、その理由の相互関係を突き詰めていくと、その先には「なぜ、ICUはつくられたのか」という創設のWHYと繋がるすごいストラクチャーがあることもわかってくるのです。

ICUはなぜ、生まれたのか?


ICUがなぜ生まれたのか。最近流行りのワードで言えば「パーパス」というやつですね。
それは「日本を世界にむかって開かれた国に革新し、人類平和のために貢献する人を育成する」です。
1949年6月15日、静岡県御殿場のYMCA東山荘に集まった日本と北米のキリスト教界の指導者たちによって決議された「国際基督教大学」が創設され、その後、国内外の企業や団体、キリスト者、非キリスト者を問わない多くの国際的な善意によって寄せられた寄附金1億6千万円によって武蔵野の広大な土地が購入されてICUはその歴史をスタートします。(ICUオフィシャルHP「なぜ、ICUは誕生したのか?」より)「日本を世界にむかって開かれた国に革新し、人類平和のために貢献する人を育成する」。ICUが世界に存在する意義は、そこで明確に定義され、以後、その歴史がスタートします。理念を真に実現するための多種多様な制度、方針、概念、システム、運用が熱く議論され、丁寧に分解されて、時間をかけて結実したのが、今のICUなのです。

ICUは稀に見る強いパーパスとともに生まれた大学であり、、、


その話は、ちょうどその頃、パーパスを起点にした高度経営を実践するためにつくっていた777のパーパスコンサルティングメソッドとシンクロします。パーパスが重要な時代。それは間違いのないこと。だけど、だからと言って、パーパスを捻り出して策定すれば経営は強くなるわけではなく、パーパスを起点にしたストラクチャーをつくり経営のリアルに接合させていくことが重要、という考え方です。Steve JobsのAPPLEがすごい会社になったのは、Steve Jobsの掲げたパーパスが強かっただけでなく、パーパス実現のために最適化された組織や構造や仕組みがつくられていったこと、さらには、そうした独自の構造や仕組みがユニークな活動や文化を生んでいったからに違いないのです。

ICUは、強いパーパスとともに生まれた組織であり、それはSteve JobsのAppleにも匹敵するものであること、パーパスを高度に実現するために必要な理念や思想が徹底議論され、実践に移していくための組織や制度が練り込まれ、そうして生まれていった組織や制度がユニークな活動や文化を生み出してきたこと。そうしてできあがったその総体がICUの本質なのです。ICUのユニークさはバラバラな点のユニークさではなく、生み出された堅牢な構造=ストラクチャーのユニークさだったのです。

ICUがつくり育ててきたパーパスストラクチャーを整理する。


そこで、ICUがユニークだと言われるファクトをすべて洗い出し、それらファクトを理念や思想のレイヤー、組織や仕組みのレイヤー、活動や文化のレイヤーに分け、パーパスを頂点とするパーパスストラクチャーを整理してみることにしました。

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パーパスストラクチャー/4 Layer

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ユニークネスポイントのパーパスストラクチャー分解


こうして整理されたICUの強固なパーパスストラクチャー。それは、ICUが創設以来70年という長い時間をかけて磨き、つくりあげてきた知の結晶であり、努力の成果です。

それが見えてきたら、あとは、その効果的な伝え方の設計です。これだけユニークでこれだけ重要な訴求点ですから、1コーナーを設けて解説コンテンツをつくる、なんてことで終わらせてはいけません。唯一無二のストラクチャーの面白さを感覚的に体感できるものに仕立てていく必要があります。

制作担当のカルチャーのチームに依頼し、ストラクチャーを構造体験するコンテンツを開発してもらいました。創設のWHYから理念・思想のWHYへと、さらにはユニークな仕組みや制度のWHYへ、施策や文化のWHYへと。タイルをクリックしながら次々に分岐していく流れを通じて、ICUのユニークさが骨太なパーパス構造に起因するものであることが伝わっていくものになっています。「グローバリズム」も「国際的対応人材の育成」も「バイリンガリズム」も、この伝わりを通じて理解されていくことで、その取り組みの根本的な違いが明確になっていきます。同時に、トップページのビジュアルエリアでは、ICUユニークネスを構成するファクトの中からいくつかがセレクトされトッププレゼンテーションされると同時に、さらなる興味をもって、パーパスストラクチャーに触れる流れへと誘導されるようにつくられています。

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パーパスストラクチャーを体験するインタラクティブコンテンツ

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現在もサイトTOPで、美しく運用されています