カテゴリー:コラム
更新日:2023年2月22日
2010年代、企業ウェブデザインのあり方を考えさせられるあるできごとが起こりました。アメリカの有名スポーツブランドNIKEのオッフィシャルサイト「Nike.com」の大改革です。
1990年代後半から2000年代。まだ未開だったネットブランド表現のあり方に大胆な解を提示し続け、世界中のデザイン賞をとりまくっていたNIKEブランド。それまでのマスメディアと全く違う意味と質をもっていたネットメディアでの表現をどう考え、どうクリエイティブを生み出せばいいのかわからなかった世界中のクリエイターにとって、NIKEのWeb表現の数々は、その未来を示すショーケースのような存在になっていました。CMの現場からネットの世界にスイッチした福田にとっても、NIKEブランドがウェブで展開する表現は、重要なベンチマークであり、超えるべきレベルを示すものとして存在していました。その時代、国際的デザイン賞に新設され始めていたデジタルクリエイティブ部門でも、NIKEのウェブサイトをはじめとするオンラインクリエイティブ群が上位受賞の常連となっていたのは言うまでもありません。
ところがそのNIKEブランドが2010年代初頭にオフィシャルサイトを大改革し、現在の姿に一本化してしまうのです。ブランドの数だけサイトはある。体験の数だけサイトはあるとまで言われ、国ごとに、スポーツカテゴリーごとに、イベントごとに存在していたNIKEのサイト群。挑戦と冒険に溢れたリッチな表現の数々。それらが一斉にクローズされ、世界標準のプラットフォームデザインに統一されたのです。おそらくそれは、クリエイティブを大切にしてきたNIKEにとって、とてもとても大きな勇気を要するものだったことは間違いありません。数100の表現を捨てて、1を選択する英断だったわけですから。
その英断の背景には、こんなことがあったと想像されます。
・生活者のメディア視聴環境が劇的に変化し、スマホを中心とした多様なデバイスでスタートし始めた情報生活にウェブ発信が柔軟に&スピーディに対応することが重要になってきた。
・ビジネスはさらにグローバル化し、発展途上地域でのビジネスが重要になる中、どの国でもブランド表現が統一されたクオリティで届けられることが重要になってきた。
・時代変化が激しくなり、情報発信の機動性とスピード感が問われる時代を迎えていた。
・そうした環境変化のなかで、「いいウェブデザイン」の意味を問い直す必要に迫られた。
ウェブは生き物です。印刷物として定着されたクリエイティブ完成度を問うポスターのようなものとの大きな違いは、ウェブは時間軸を持ち、新しい情報を随時取り込んでいきながら、その姿形をぐるぐる変えていくところ。その生き物のようなダイナミックさとライブ感がウェブメディアの大きなメリットです。もちろん美しく佇む静的サイトにも意味はありますが。
かつて企業サイトをつくり始めたころ、立ち上げ時に丹精込めてつくりあげたサイトデザインが、運用される時間と共にデザインが崩れていくことを嘆いていた時代がありました。せっかくいいデザインでサイトをつくりあげたのに、と。でも、あるタイミングで気づきます。企業サイトは効果的に運用されてなんぼなのに、運用とともにデザイン価値が減衰していくって、そもそもその責任の半分は僕らの作り方にあるんじゃないの、と。サイトって、そもそもどうなの?どんなに素晴らしいデザインでも、運用チームが触れない難しいプログラムで書かれてたら、
企業サイトの仕事をたくさんするようになって自分が大きく変わっていったのは、ネットクリエイティブに関わり始めた最初の頃、広告で育ってきた自分は、従来のデザイン概念の延長線上で、いいデザインやいい体験の意味を考えていたように思います。自分の仕事の中でも、自分が提供する「いいデザイン」の意味を多様に考えながらただ、そのメディアとしての最大価値は、その動的なところにあります。情報の変化やアップデートを受け止め、時間とともに変化し、その変化のあり方のデザインがいいサイトかそうでないかの重要ポイントになることです。チャレンジングで表現リッチなサイトはクリエイティブ進化としての重要な意味をもちつつ、生き物のように姿を変えていくウェブメディアの必ずしも、変わり続ける生き物としての柔軟さを兼ね備えているわけではない、ということ。ユニークなウェブ表現で指名いただきインパクト重視で作っても、その後の運用に向かないために、依頼主の落胆につながることもあるのです。もちろん、短期的なインパクトを目的につくられるサイトもありますから、例外もある、ということです。
Nike.comの2010年代の大改革は、100%自由なクリエイティブとのトレードオフで、更新力と多デバイス対応力、多言語対応力、攻めのマーケティング力を手に入れるものだったのだと思います。2000年代に活性化したCMS(Contents Management Systemu)導入の流れは、各企業が自社内でWeb更新する流れの第一歩となり、更新の頻度と速度は格段に進化しました。そしてさらに2010年代の流れは、CMS的仕組みを進化させ、企業が高度な情報発信ツールとして、自前メディアとして、ウェブを使い倒す大きな入り口となっていたのでした。